みる誕生 鴻池朋子展
ロダン館の背後に広がる鬱蒼とした裏山へ分け入り、美術館からの《逃走ルート》を探しだすことから、ここ静岡での鴻池朋子の『みる誕生』が始まりました。
鴻池は、あらゆる身近なメディアを用いて、旅をし、地形や季節と共に作品をつくり、一貫して自身の足元から芸術の根源的な問い直しを続けてきました。「みる誕生」とは、生まれたての体になって世界と出会う驚きを表す鴻池の言葉です。視覚だけではなく、観客は作品を手で看(み)て、鼻で診(み)て、耳で視(み)て、そして引力や呼吸で観(み)て、眠っていた感覚を目覚めさせます。今回は、実際に裏山の小径を整備し、美術館という硬直した建築と、疎遠になってしまった自然界に、観客の身体と想像力とで新たな通路を開いていきます。
また一方、国立療養所 菊池恵楓園 絵画クラブ「金陽会」の作品、多くの方々と手芸で綴る《物語るテーブルランナー》という他者の力、人間以外の造形力である《どうぶつの糞》にも加勢してもらい、美術館のコレクションと豊かに対話させます。
これまで芸術が特権的に提示してきた価値観、それによる文化と経済のグローバリズムの構造が、今、地球規模の問題とともに大きな転換期を迎えています。本展は、前会場の高松市美術館からそのリレーのバトンを引き継ぎ、この静岡の地でさらに変容を重ねます。芸術は、常に生き延びるために伸縮や宙返りを繰り返し、揺れ動いています。生きていることは、みな、時も光も全て違う。観客さえも、もはや人間だけではないのです。