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本のキリヌキ

本展は彫刻作品に付随する情報についての展覧会です。企画者は近年、東アジアの彫刻概念の伝播と拡大について、1930年代の東京美術学校の彫刻科への留学生に関するリサーチと作品制作を行ってきました。そこで見えてきたことは、「彫刻」が実物以上に、言語や単純化されたイメージ等の2次的な情報に置き換えられることによって、東アジア広域に伝えられたという事です。例えば、韓国の場合、朝鮮戦争後の物資の乏しい中で美術家達はこぞって大きな港のある釡山に集まり、美術手帖などの美術古書を入手し、そこにある写真と文章から世界の美術の情報を得ていたそうです。こうした状況は西洋美術に対する日本の態度と重なるもので、雑誌や新聞など書物に掲載された彫刻の2次的な情報が彫刻そのもの以上に「彫刻」として受け取られ作用してきたという見方もできます。本展は、彫刻作品とその二次的な情報についての展覧会であり、近代の東アジアの彫刻の受容と変遷を見つめ直すことを手がかりに「彫刻の情報は彫刻である」という仮説のもと旧来の彫刻観を解体し、現代における新しい彫刻表現の可能性を探るものです。

参加アーティストは、石黒健一、入江早耶、クリス・パウエル、黒田大スケ、ジョン・マンヨン、中谷ミチコ、前田春日美、吉野俊太郎の7名で、大きく3つのセクションに分けて展覧会を構成しています。最初のセクションでは、彫刻の話をする前提として立体物の価値や美意識について注目していくもので、石黒のヤップ島の石貨に関するドキュメント作品とクリスの石器と見紛うようなファウンドオブジェクトの作品が並びます。次いで2つ目のセクセクションでは、明治期から現在に至るまで日本の近代的な彫刻概念がどのように形成され東アジア諸国に派生したかについて彫刻表現の境界を行き交うようなアーティストの実践を通じて見ていくもので、黒田の東アジアの彫刻概念に関するリサーチをもとに制作したビデオ作品、そして入江の彫刻家達の振る舞いをなぞるような古い美術手帳のイメージから作り出した立体作品、さらに彫刻表現を強く指向していく中で平面性を帯びていった中谷のレリーフ作品、また彫刻表現の多様性を示すようなジョンの環境(音)と身体の関係性を彫刻作品へと昇華したサウンドインスタレーションが並びます。最後の3つ目のセクションでは、コンピュータやインターネットが一般化した社会の中での「彫刻」表現の現在とこれからの可能性について問うもので、比較的若い世代の参加アーティストである前田と吉野の共同制作によるインスタレーションが並びます。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、インターネットを通じた間接的なコミュニケーションが一般化した現代において、「誰か」や「何か」に出会わない二次的な情報に基づいたコミュニケーションは当たり前のものとなりました。2次的な情報だけで、主体が不在のままに物事が完結していくことが珍しくなくなった現在において、本展が掲げる、「彫刻の情報(イメージ、テキストなどなど)は彫刻である」という仮説も、もはや取り立てて特別のものではなく、当然のことのように思われてきます。そうしたなかで本展は、「彫刻の情報は彫刻である」という仮設を手掛かりに彫刻概念を読み直し拡大していくことで、帝国主義に始まる日本の近代のあゆみの中で生み出された「彫刻」という芸術表現を捉え直し、新しい彫刻表現や実際的な彫刻史を編み出していく契機となればと考えています。