金氏 徹平 | クリスピーな倉庫、クリーミーな部屋
OPEN STORAGE 2017 - 見せる収蔵庫 -
広さ約1,000m²・高さ9mの鋼材加工工場・倉庫跡地を活用した「MASK (Mega Art Storage Kitakagaya)」で保管する大型現代アート作品の一般公開「OpenStorage2017」を、11月3日(金)から26日(日)まで実施しました。
4度目となる今回は、メインアーティスト・金氏徹平が、MASKの巨大な空間全体を使い、収蔵作品にも大胆に介入するインスタレーションに挑戦。また、約60年前に建てられ、造船業に従事していた労働者向けの住居や店舗として使われていた文化住宅を再生し、2017年8月にオープンした新スペース「千鳥文化」の極小居室では、サイトスペシフィックな常設作品を初公開しました。かつて造船業で栄えた北加賀屋の歴史を物語る工場跡と旧文化住宅、機能の異なる二つの遺構が、金氏の創造性によって連動し変容をみせました。
芸術の超越力の試行
第三章「コラージュの作法の極意」
重厚長大産業地における「芸術の超域力の試行:第三章」は、軽薄短小産業とも組しながら、既知を未知なるものに変容させる、コラージュの極意者を主役に迎える。
金氏徹平は、身のまわりの事物を素材に、部分を切り抜き、繋ぎ合わせることで、主観的な構成の意図を排した意想外の組合せを重視し、既存の文脈を読み替えるコラージュの手法によって作品を制作している。プラスチック容器・フィギアなど様々な既製品を組み上げて石膏・樹脂をかけた彫刻や、塗り絵・地図の線と余白で構成したドローイングなど、「白」をテーマにした《White Discharge》シリーズ。感情や気分、気配や音・速度・光といった現象など、形の無いものを記号化した漫画のスクリーントーンを版画・ターポリン印刷・ポスターに用いたり、雪だるまをつくるように都市にある素材を手遊び感覚で造形物を創り出す《ボイルド空想》シリーズ。ドローイング→アニメーション映像→舞台セット→彫刻へと同じイメージが脈々と進化を遂げていく《tower》等々。
金氏は常に複数の作品を同時多発的に発生させ、年月を重ねながらシリーズのテーマを探究している。その作法の極意は、各種素材や各々の状況・空間・環境はもとより、関わる人々のメチエまでも、コラージュの要素として射程にしていることだろう。近年は、舞台・音楽・文学・建築などの表現者とともに実験性の高い制作法を試行し、活動領域はもとより表現世界も拡張させている。
そんなコラージュの極意者によって、1000平米の工場・倉庫跡に佇む巨大な作品群は組換えられ、緩やかに関与しながら、照らされる光によって表情を変えている。数分ごとに、昼や夜に、異なる様相を成し、空間そのものが動的な存在として息づいているかのように、、、。その体験は、路地散策やモノの見立てを楽しむ能動性によって変容する。
さらに金氏の仕掛けは、倉庫から外に出て、約60年前に建てられた近隣の文化住宅へと目端を利かせ、繋がっている。新たな活動の場として生まれ変わった二階の部屋では、重厚長大産業の労働者である当時の住み手のブリコラージュによって形成された昭和建築の物証を、現在のブリコラージュを駆使する金氏が引き継ぎ、他者の痕跡と格闘しながら、これから続く創作の約束を果たしたのだ。
重厚長大と軽薄短小の産業物と時代性、巨大な倉庫と極小の部屋、相反する二つを繋ぐ金氏の創造の欲望は静かだが凄まじい。
都市や工場跡やネットで素材を愛でて剪定し、重力や時間と格闘しながら形を成す。そこに生まれた空間では、多様な他者の意図を迎え入れて組し、一人では成し得ない次元へと誘う。それはまるで華道や茶道を極める数寄者の極意にも似て非なる精神が宿る。と見たてるのは、言い過ぎだろうか。いやしかし、臆せず明言しておきたい。「侘びすきにて、しいて茶法にもかかはらず、器軸をも持たず、一向自適を趣とす」と、流行や高額な茶器には目もくれず、時に痛快なユーモアで客人をもてなし、独自の茶道を追求していた伝説的な茶人丿貫へちかん。この稀代の数寄者と金氏の態度が重なるのだ。「なんでもありで、なにでもなしというのを受け入れる。」と語る金氏には、亜流の創造性に自らを委ねて本流にたどり着く、丿貫へちかん的創意工夫の作法の極意が脈づいているということを、信じてやまない、、、。
本企画キュレーター 木ノ下智恵子
(大阪大学社学共創本部 准教授)