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荒木 経惟 | 恋夢 愛無

2016年10月にオープンした東京スペース(complex665)においては初、タカ・イシイギャラリーでは通算26度目の個展となる本展では、6×7フィルムで撮影したモノクローム写真を中心に、98点の新作を展示いたします。

70年代初期より荒木は、被写体との極めて私的な関係性を切々と撮影し、今日までの半世紀の間に写真集500冊以上に及ぶ膨大な数の作品を発表してきました。主観的な視点で物語が展開する文学形態である私小説に準え、自らの写真を「私写真」と呼び、「私写真(私小説)こそが写真である」とする態度は、1971年に刊行された実質的な処女写真集『センチメンタルな旅』の序文において写真家自身によって高らかに宣言されて以来、すべての荒木作品に通底しています。

1990年の愛妻・陽子の死後、その作品にはエロス(生/性)とタナトス(死)が表裏一体により色濃く写しとられ、また2000年代後半から自身に降りかかった度重なる病魔や、年月を重ねる中で身体や精神に表れる老いまでもが作品として結実する様は、昨年2017年に国内外の各地で開催された展覧会群でもひろく紹介されました。自らの死を覚悟し、まるで残された時間を惜しむかのように開催したこれらの合計20あまりの個展を通じ、展示した自らの作品から「死から生に向かう」よう励まされ、荒木は今日も精力的に制作を続けています。

本展で展示される作品はすべて、中判モノクロームフィルムで撮影されました。荒木にとってモノクローム写真は元来「死」を象徴していますが、昨年以降、止まっているはずの被写体のうちに微動を感じ、「殺しちゃいけない。写真で撮ることは、最後まで微動して見えなくちゃいけない」と写真家は語っています。また、あくまでもフィルムでの撮影を基本とする姿勢には、荒木が大切にする情(愛情/情け/情緒)は、フィルムの乳剤面でのみ写しとることができるとの確信がうかがえます。